2040年の高等教育が目指すべき姿

 これからの世の中は予測困難な時代に突入しています。そのような時代に求められるのは、卒業してからも自律的な学修者として学び続けることのできる人です。この時代を生き抜くためにも、大学教育には変化が求められています。文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会では、高等教育機関が求められる役割を真に果たすことができるよう、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(平成30(2018)年11月26日)を取りまとめました。この答申では「我が国の高等教育がこれからどう変化していくのか」を明らかにすることを目指し、これからの高等教育改革の指針として、実現すべき方向性を提示しています。

2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)【概要】

 

 

答申の冒頭では、2040年に向け高等教育が目指すものは「学修者本位の教育への転換」であることが明示されています。学修者が「何を学び、身に付けることができるのか」を明確にし、学修の成果を学修者が実感できる教育を行うことが必要であること、このための多様で柔軟な教育研究体制が準備され、このような教育が行われていることを確認できる質の保証の在り方へ転換されていくことが示されました。答申が公表された平成30(2018)年に生まれた子どもたちが大学を卒業する頃には、高等教育がさらに充実していること、そして学生一人一人が「自分の可能性が花開いた」と思って卒業するということに重点を置き、「高等教育の将来を明日から、いや今日から変えていきましょう」というイメージで「2040年」を捉えています。また、2040年頃の社会変化の方向として、持続可能な開発のための目標(SDGs)、Society5.0・第4次産業革命、人生100年時代、グローバル化、地方創生の5つを挙げています。

学修者本位の教育を実現するには、「供給者目線」から「学修者目線」への転換、すなわち「教員(教える側)の目線」を主体とした教育から「学生(学ぶ側)の目線」を主体とした教育への転換が欠かせません。これまでの大学では「どういう教育をするのか」という情報は発信されていても、「学生に何をどのように教えたか」「どのような学生を送り出せたか」といった、教育成果に関する情報は多くありませんでした。そこで教育成果を見えるかたちで表すため、学修上のゴールである「卒業認定・学位授与の方針(DP)」を具体的かつ明確に設定し、卒業生に最低限備わっている能力の保証として設定する必要があるのです。

教学マネジメントの確立

教学マネジメント指針

 大学教育の質を保証するためには、大学自らが率先して取り組むことが重要です。予測困難な時代を生き抜く学修者を育成するためには、学修者本位の教育に転換することが必要ですが、各大学においてはそれぞれの「学位プログラム」レベルのみならず、全学的な内部質保証を推進することが求められます。 そのためには、大学全体が一つのシステムとして「教学マネジメント」という考え方を確立しなければなりません。そこで各大学における取組に際してどのような点に留意し、どのような点から充実を図っていくべきかなどを網羅的にまとめた指針が、令和2(2020)年1月22日に「教学マネジメント指針」(中央教育審議会大学分科会)として取りまとめられました。 この指針では教学マネジメントを「大学がその教育目的を達成するために行う管理運営」と定義しています。学長のリーダーシップの下、学位プログラム毎に、以下のような教学マネジメントを確立することが求められています。

教学マネジメントの主体

 教学マネジメントの主体となる者について、本指針では「学長・副学長や、学部長など個々の学位プログラムの構築・運営に責任を負う者は、教学マネジメントの確立に主たる責任を負う管理者として、本指針を参照することが最も強く望まれる者である」と明記しています。また、教学マネジメントの確立に当たっては、現場で実際に教育やその支援に携わる一人一人の教職員が教学マネジメントの重要性やその考え方を理解することも重要であることから、本指針は、教職員も利用できるよう留意して作成されています。本学における学位プログラムは次の3つであり、それぞれの学位プログラム毎に独自の教学マネジメントを構築する必要があります。

教学マネジメントの主体

教学マネジメント指針の構造

 教学マネジメントを確立する上では、各大学が、三つの方針に基づき自律的に体系的かつ組織的な大学教育を展開し、その成果の適切な点検・評価を行い、その上で教育改善に取り組むことが必要です。個々の取組は、こうしたプロセスの全体像を意識した上で適切に位置付けられる必要があることを踏まえ、本指針の構造は以下のとおりとしています。

Ⅰ 「三つの方針」を通じた学修目標の具体化
Ⅱ 授業科目・教育課程の編成・実施
Ⅲ 学修成果・教育成果の把握・可視化
Ⅳ 教学マネジメントを支える基盤
Ⅴ 情報公表

教学マネジメントを支える基盤

 学修成果・教育成果を最大化するためには、教職員の能力向上が必要不可欠です。各大学は、「卒業認定・学位授与の方針(DP)」に沿った学修者本位の教育を提供するために必要な望ましい教職員像を定義した上で、対象者の役職や経験に応じた適切かつ最適なFD・SDを組織的かつ体系的に実施していく必要があります。加えて、FD・SDは、学修成果・教育成果の把握・可視化により得られた情報の共有、課題の分析、改善方策の立案等、実際に教育を改善する活動として位置付け、実施する必要があります。 また、教学IRは、教学マネジメントの基礎となる情報を収集する上での基盤であり、学長をはじめとする学内の理解を促進するとともに、教学IRを実施する上で必要となる制度の整備や人材の育成を進めていく必要があります。

日本赤十字秋田看護大学・日本赤十字秋田短期大学における教学マネジメント

日本赤十字秋田看護大学・日本赤十字秋田短期大学がめざす教職員像

平成29年5月11日

 

〇日本赤十字学園の教育機関に勤務する者としての自覚をもつとともに、建学の精神である「人道」の理念を尊重した態度・行動をとることができる。

〇職務に必要な専門的知識・技能を有し、常に教育・研究の質の向上を探求しつつ、創造的提案を行い、実行することができる。

〇目標達成に向けてコミュニケーション能力を駆使し、チームワークを図りながら積極的に参加・行動することができる。

教学マネジメント・ポリシー

本学では、赤十字の理念を基調とした「人道」の建学の精神を踏まえ、全課程における教育を支えるマネジメントのあり方について、次の方針を定める。

  1. 学生が、生命の尊厳と人間性の尊重に基づき、保健・医療・福祉システムの中で活動でき、将来の教育・研究へと発展できるための教育を受ける機会を保証する。
  2. 「本学がめざす教職員像」に則り、教育機関の構成員としての使命と倫理観を持って、教育支援・能力の向上を図るための機会を保証する。
  3. 教育の目的・目標を遂行できるような学習スペースの確保、学習資源の配備、情報資源の活用等を通じて、学生の自発性を促す学習・研究環境を整備する。
  4. 学生が、充実した学生生活を送れるよう、個々のもつ多様性を配慮した学生支援を推進する。
  5. 社会の要請に応える教育を展開していくために、教育に関する情報の恒常的な把握に努め、教育カリキュラムを定期的に点検・評価・改善をすることで、教育の質を担保する。

日本赤十字秋田看護大学・日本赤十字秋田短期大学における「教学マネジメント指針」

 本学では、赤十字の理念を基調とした「人道」の建学の精神を踏まえ、全課程における教育を支えるマネジメントのあり方について「教学マネジメント・ポリシー」を定めています。このたび制定した教学マネジメント指針は、この教学マネジメント・ポリシーを踏まえ、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」において課題とされた今後到来する予測困難な時代にある高等教育改革の実現すべき方向性として求められる「学修者本位の教育の実現」を目指し、中央教育審議会大学分科会(令和2年1月22日)で検討された「教学マネジメント指針」を基に作成されました。

 本学はこれまでも教育の質を保証するため、自主的な教育改善を行ってまいりましたが、「自律的な学修者の育成」を進めるために、教育を目的とする組織としての大学が、教学マネジメントという考え方を重視していく必要があると考え、すべての教職員のめざすべき指針として制定しました。

 本学はこれからも「学修者本位の教育の実現」を目指し、改革に取り組んでまいります。

日本赤十字秋田看護大学・日本赤十字秋田短期大学における「教学マネジメント指針」