※この記事は2019年3月発行の学報Carillon第8号に掲載された記事を編集、再掲載したものです。
やれることや可能性を広げられるのが、介護の仕事の魅力!
- 井上
- 今日は皆さん、お忙しい中お集まりいただきありがとうございます。卒業生の皆さんに、いろんなお話を伺えればと思っています。まず初めに、介護の道に興味を持ってくれる人が少なくなり、入学者数が減少していることについて、何か打開策はあるでしょうか?
- 加藤
- 私が介護の道に進んだきっかけは、高校生のときのボランティアでした。そもそも今の時代、若い世代は『老人と触れ合う機会』が少ないと思うんです。社会人向けの資格取得ができる施設などでは、実習の機会すら減っています。介護施設を運営する側も、一般の方や子どもたちが気軽に施設に出入りできるような、環境を作っていく必要がある。今、私が運営している施設の隣に小学校があるので、学校で授業をさせてもらったり、授業の一環として子どもたちにボランティアとして来てもらったりしています。子どもたちが来るだけで、施設にいるおじいちゃんおばあちゃんは大喜びです。そういう機会があると子どもたちには「楽しかった」という記憶になって残るんですよ。卒業するころには「こういう場所で働きたい」ということを言う子どももでてきたんです。もっと高齢者と子どもたちが触れ合う機会を増やしていくべきだと思います。子どもたちは学校でやるべきことが多いのかもしれませんが、介護の授業はその中で少ししかない。なんとか増やしていけないかなと思いますね。幼いころから老人と関わることが、もっとできるようになればと思います。
- 菅原
- 介護施設って、閉鎖的に見えるのかもしれませんが、実は以前に比べるとずいぶんオープンになってきています。地域に根ざすことを意識している施設も増えてきました。私が学生の頃や、就職したばかりのころに比べて、かなり変わってきています。
- 八代
- 小中学生にとっては施設にいるご老人たちは「おじいちゃん・おばあちゃん」というより、「ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃん」に当たるんですよ。だから余計に「触れ合って楽しかった」という体験がない。ボランティアや授業で訪れたときも、経験がないので、どう接して良いのかわからないんですよね。施設は地域密着ということで、郊外ではなく街中に増えてきています。もっと子どものうちから、高齢者に接する機会を増やしてほしいと思います。
- 菅原
- 介護職の地位が下がってしまったことも、志す人が減ってしまう理由のひとつではないかと思います。介護現場って「働く先がない人が行く場所」とか「誰でもできる仕事」というイメージを持たれています。でも、そうじゃない。もちろん、自宅で介護をしている方もいて、誰でもできるものでなければならない側面もありますが、日赤短大で学んだ人たちは、その1歩先、2歩先を行かなければ。福祉業界の仲間の中には、自信を持てない人が多い。それをサポートして、ともに成長していかなければと思っています。私自身はこの仕事にやりがいを感じていますし、やれることや可能性を拡げていける仕事だと思っています。
- 加藤
- 介護人材を増やすためには、保護者の方の考え方も変える必要があります。今「介護は将来性がない仕事」と思われている。それは大きな勘違いです。給料もしっかりしていますよ、将来性もありますよということを、もっとPRしていかなければならない。もちろん、この業界の良いところとして、給料に反映されない部分の「やりがい」の大きさが魅力のひとつであることも理解してもらいたいとは思いますが、客観的な判断ができる基準として、勤続3年くらいして、こんな資格を取得したら主任に昇格したとか、ケアマネジャーや社会福祉士の資格を取得すると、これくらいの給料になりますよとか、もう少し安心してこの仕事を選べるような環境を整えていくべきじゃないかと思っています。なかなか難しいことだとは思いますが…。
- 八代
- そうですよね。みんな生活がかかっているわけですから、待遇や給料というのは大事な部分だと思います。実際、年功序列で給料が上がっていくような仕組みではないですし、資格を取ったからと言ってそれをぶら下げているだけでは意味がない。取った後にどう活かせるかがとても大事です。
介護の現場では、連続ドラマのようなことが次々と起こる!
- 井上
- このキャンパスには、看護と介護福祉の2学科がありますが、それについてはどうでしょうか?
- 菅原
- 介護と看護がどう違うのかというと、非常に難しいです。ただ、やれることは介護のほうが幅広いなと感じています。介護のほうが守備範囲が広く、やらなくてはならないことも多い分、やりがいを見つけやすい。ただ、その良さを伝えるのはすごく難しいし、なかなか機会も少ないのが現状なんです。
- 加藤
- 本来は看護も、患者さん一人ひとりを大事にして接するべきですが、介護という仕事ができたことで「一人ひとりとの繋がり」という部分が切り離された感 力があるんですよね。看護にも、介護と共通することはあるけれど、介護はその「人との繋がり」の部分に特化し、より大事にできる仕事なんだということは言えるんじゃないでしょうか。もちろん、看護師さんでもやっていないわけではないから、一概に言えないのですが…。利用者とコ ミュニケーションを取って、自分と会話をしていくことで元気になってもらえる。その姿を目の前で見ていけることが、私は楽しいと感じています。もちろん、医療としてのリハビリは、通えば歩けるようになるし、自宅復帰につながっていく。でも私たちもそれらの知識を覚えて、見よう見まねでマンツーマンで接していくことで、それ以上の効果を生み出すことがある。そういう経験を重ねていけるのが介護の楽しみです。そういう楽しさを見つけていってもらいたいなと思いますね。
- 八代
- 私は母が看護師の資格を持っていて、介護福祉士養成校の教員もやっていました。だからはっきり分けるべきものなのかはわからないですが、より生活に密着しているのが介護なのかなと思っています。しかし、なんで介護を題材にしたドラマってあまりできないんでしょうかね(笑)。現場では、連続ドラマにしたっていいくらいのことが次々と起こるんです。お互いに愛着も湧いて信頼関係もできて、時には怒ったり怒られたり、一緒に涙を流したり…。治療に携わるという部分では、圧倒的に看護師よりも介護福祉士のほうが関係が濃いんじゃないかと思います。介護は、その方の生き方を左右するところまで関わる。それと同時に、介護する側の引き出しの無さとかが露呈されていったりするから、もっと頑張らなきゃというモチベーションにつながったりしています。
- 菅原
- 勉強したことだけじゃ対応できないんですよね(笑)。本当に、泣いて喧嘩して抱き合って…。
- 八代
- そうなんです。亡くなったら終わりということもなくて、その後も家族の方との関係とかもあって。形式的なケアではなく、人と人との関わりがつながっていきますよね。
- 菅原
- うちの主人は、先天性の障がいを持っていて、普段ヘルパーさんにサポートをお願いしないといけないんです。当初、お願いをするにあたって、私は医療的なサポートもしてもらえるので「訪問看護」として看護師のほうが良いんじゃないかと思いました。でも、主人はヘルパーさんが良いと言って、「訪問介護」を選んだ。どうしてなのか聞いたら、「医療は障がいの部分を見るけど、介護福祉士は生活全般をサポートしてくれるから」と。疾患ではなく、生活全般を見るのが介護福祉士である、ということを主人に言われて初めて気づいたんです。そこが看護と介護の大きな違いなんだと。介護福祉士は、病気のことだけじゃなくて「どうしてほしいのか」「どんな気持ちなのか」を気にかけてくれる存在であり、自分もそうでありたいなと思いました。
- 加藤
- 介護福祉士は、生活全般をフォローしなくてはならないんです。体の洗い方や洗髪の仕方を授業で教えてもらったとしても、実は人によってやり方は違いますよね。仕事をしていると「もっと気持ちよくさせてあげたい」と思う。私はそれで洗髪のプロは理容師や美容師だなと思って、床屋さんに洗い方を教えてもらったことがあります(笑)。でも、そういう突き詰めていくことがやりたいし、そういうことをできるのが介護福祉士の仕事であって、楽しいと感じる。提供できる引き出しを増やしていって、喜ばせたいんですよ。自然と料理も上手になって、なんでも作れるようになりました(笑)。
- 菅原
- 私は関わった方々に、納得していただける「よい人生のお見送り」をしたいと思っているんです。人の人生の最後のときに関われるって他になかなかない仕事だと思っていて。これまで何度か、利用者のご家族の方に「人が亡くなっていく仕事なのに、やりがいってあるんですか?必ず死ぬのに、どうして頑張れるんですか?」って聞かれたことがあります。他の仕事であれば、よそのお宅に入っていくことってあまりないですし、人の死という大切な節目に立ち会うこともあり得ない。最期に「ありがとう、良かった」よと思って亡くなってもらいたいなという思いがあるので…。亡くなってから感想をうかがうことはできないのですが、そう考えると「人生のお見送り」をするからこそ、やりがいを感じるんだと思います。
- 八代
- 人の死や、人の人生に携わる経験は、なかなかない。そして人の人生に関わるということは、そのまま自分の経験にもなっていきますよね。
認知症や特殊詐欺のことを知って広く欲しいと、劇団を立ち上げました!
- 井上
- 介護福祉の分野はできることの幅が広いことが魅力だと思います。具体的に何か活動はされていますか?
- 八代
- 私は福祉関係者を中心に、認知症や特殊詐欺のことを知ってほしいということで劇団「ちいさなお世話」を立ち上げました。学校の先生や薬剤師さんなどもいて、職種はみんなバラバラなんです。認知症詐欺のシナリオとか、自宅の看取りというテーマのシナリオもあります。ユーモアを交えながら、劇とスライドを交互に上演するようなスタイルです。介護の魅力というテーマでも上演を依頼されたりしています。
- 加藤
- 実は私は勝平に施設を建てたんです。小さいお子さんと遊べたり、1階部分を地域の方に開放して、サークル活動などができるような場所です。地域交流のベースとして使えたらなと。勝平にある自社の施設の隣に作ったんですが、まだPR不足で活用されていないのが現状です…。
- 菅原
- 私はそこを活用させてもらって、寸劇を上演する予定です。勝平地区の方にお話を伺うと、使いたいとおっしゃっている方も多くいらっしゃいますよ。ただ、どう使っていけばよいのか、どう進めれば良いのかがわからないということも聞きましたので、その部分もサポートしていければと思います。
- 加藤
- ぜひそうしましょう!今も勝平に住む漁師の方が、販売する場所として使いたいという申し出をしてくれたりしています。これから色々活用してもらえるよう、アイディアも出していきながら広めていきたいなと思います。
日赤秋田短大出身者は、信頼感を感じていただける状況になっています!
- 井上
- 短大は2年で修了しますよね。それは現場としてどう感じますか?
- 加藤
- 日赤短大出身の方がどんどん活躍してくれていることもあり、「日赤」というものがひとつのブランドとして見てもらえているという実感があります。もちろん他の学校を卒業した人も、専門的な学びを得てきています。ただ、日赤短大出身ということで、ある種の安心感、信頼感を感じていただけるという状況になっています。現場にいる私たちとしては、できるだけ優秀な人材に、できるだけ早く現場に来てほしいという気持ちです。2年という期間で専門的な知識を得て、早く現場で経験を得てもらいたいんです。短大2年だけでなく、もっと学びたいという人はそこからさらに他の大学への編入もできますしね。
- 菅原
- 早く社会に出られるということは、魅力的だと思います。まずは2年間学んで、その先を考えてほしいです。
- 加藤
- 私も実際に本学に入学し、2年間勉強してすぐに社会に出ました。結果として、すごく良かったと思っています。2年間勉強したことは、あくまでもベースなんです。社会に出て初めて経験を得ることができたと思います。
- 菅原
- 介護は経験値が必要とされる分野なんですよね。非常に幅が広くて、臨機応変さも求められます。専門的な知識を持っただけでは、太刀打ちできないことが数多くあります。
- 加藤
- 各事業所の上の立場の人たちにはそういう必要性がわかっている上で、日赤短大出身の人材に対して一目置いてくれるんです。
- 菅原
- 私は最近でこそなくなりましたが、卒業してからも壁にぶつかると短大に来て相談していました。そういうことを受け入れてくれる、卒業後もつながって支えてくれる場所だと思っています。私以外の学生も、介護福祉学科の学生は相談しに来ているみたいです。もちろん、愚痴や悩みごと相談だけじゃなく、最近の現場での話もするので、先生たちを通して学生にフィードバックされていると思っているんですが…。
- 加藤
- そうですね。私は今でも先生たちに会いに行きますよ。法律が変わったりすると、どうすべきか相談したいことも出てくるので。
業界の信頼度を上げるのは、レベルを上げるのは、日赤秋田短大出身者の仕事!
- 井上
- 実際、介護福祉学科の卒業生はよく顔を出しに来てくれますね。もちろん、皆さんから教えてもらった情報は、学生たちに伝えています。本学で学んだ「赤十字の精神」は、実際に現場でも役に立っていると感じますか?
- 菅原
- 概論の授業の内容をはっきりと覚えていて、ということではないんですが、やっぱり基礎として赤十字の精神が身についているなと感じることがあります。
- 八代
- 私は在学中よりも、卒業してから感じますね。2年間という短期で必要なスキルを身に着けて、できる限り即戦力として社会に出るわけです。その分、壁に当たるタイミングも人より早く来るんです。壁に当たるのが4年間大学に行く人よりも早いし、もちろんその分立ち直るのも早い。実は私たちの世代は、無資格の方だったり、看護師さんだったりに教わってきたんです。まだ福祉の専門家の方たちが不在だった時代で、福祉の先輩がいっぱいいる時代じゃなかったんですよね。短大の先生方も看護師の資格の方が多かった。私たちが現場に入ったころは、無資格だけど主任をやっている人もいっぱいいました。それが、今の現場は逆転しています。当時は、年功序列の流れもあったけど、学歴や資格主義になっています。どんなに職歴が長くても、資格がなければ正職員にはなれなかったり。だから、そういう立場になったときに、2年間で学んだことだとか、2年間で学んだことを経て社会に出てきたことというのを、どれだけ無資格で、未経験で入ってきた人たちに伝えていけるか。それが短大を卒業した人たちの役割になるんじゃないかと思っています。秋田県のこの業界の信頼度を上げ、レベルを上げるのは、私たち日赤短大出身者が意識をしてやるべきことなんです。もちろん、他で働いてきた人たちって、ある局面で劇的に力を発揮することがあったりしますから無資格がダメということではないですよ。新人職員のオリエンテーションもずいぶん変わってきました。学校を出てきたわけではない人たちに向けたオリエンテーションは、本当に掘り下げたところからの説明をする必要があるんですが、その説明は、誰でもできるわけではないんです。
- 菅原
- 他の方でも技術は教えることができると思うんですが、その「根拠」を教えることは、学校で基礎を学んでいないとできないんです。手順はわかっても、なぜそうする必要があるのか。そうすることでどんな効果があるのかということは、短大で学んだからこそ理解できたことなんです。だから、私自身は短大で学ぶことができて良かったと思っています。
- 八代
- 人って教わったようにしか、教えることができないんですよね(笑)。「なんでこの人、こうしてるんですか?」って聞いても「わかんない、前の人ずっとこうやってやってたからね」って。でも我々はそれじゃいけない。たとえ、経緯がわからないものがあったとしても、しっかり調べたり考えたりして、根拠とともに伝えていく必要があると感じています。
安心して働いてもらいたい、自身を持って社会に出てきてもらいたい!
- 井上
- 色々な現場にいるからこそのご意見、ありがとうございました。それでは最後に、学生に向けてのメッセージをお願いいたします。
- 加藤
- 在学生の皆さんには、教えてもらっていることに自信を持ってほしいですね。社会に出たら私たち先輩もいて味方も多いし、安心して働いてもらいたい。いま本当に人材が不足しているので、スピード出世をしたいと願う人にとってはうってつけのチャンスです。介護福祉士の資格を卒業して持っていれば、新人でも管理者になれるくらい求められています。自信を持って、社会に出てきてもらいたいと思います。